【コラム】「温泉むすめ」の何が批判されているのか 「萌えおこし」が悪いのではない

 温泉をモチーフにしたキャラクターのクロスメディアプロジェクト「温泉むすめ」について、Twitter上で批判が巻き起こり、さらに批判者への批判・非難も相次ぎ、炎上の様相を見せています。

 「温泉むすめ」プロジェクトは2017年より株式会社エンバウンドが展開、2019年からは観光庁の後援を受け、各地の温泉地でのパネル設置やコラボグッズ販売などが展開されています。

発端は仁藤夢乃氏のツイート

 一連の騒動の発端となったのは10代女性の自立支援に取り組む「Collab」代表の仁藤夢乃氏のツイートです。

https://twitter.com/colabo_yumeno/status/1460060377379602434

 問題になっているのは、キャラクターの設定です。ここにおいて仁藤氏は「温泉むすめ」のキャラクター設定について、「性差別で性搾取」と批判しています。ここで挙げられているキャラクター設定は次のようなものでした。

定山渓和美

「かわいい子を見つけると、なんだかいたずらしたくなっちゃうね!くふふ、後でスカートをめくっちゃお!」
可愛い温泉むすめが大好きでいつもスカートめくりをしちゃうイタズラなむすめ。可愛い子ちゃんの情報に詳しく、全温泉むすめのスリーサイズを覚えている。他人の可愛いところに詳しいが、自分も十分可愛いことに気づいておらず、「いずみちゃんも可愛いよ!」と言われると、真っ赤になって活動が停止するほど照れる。

小野川小町

(中略)布団に入ると妄想が爆発して「今日こそは夜這いがあるかも」とドキドキしてしまい、いつも寝不足気味。諸事情でサラシを巻いて胸のボリュームを隠している。

和倉雅奈

(中略)隠し切れないぐらいの大人な雰囲気の持ち主で、肉感もありセクシー。よくスクナヒコの晩酌に付き合うくらいお酒が好きだが、とても弱く、用途甘えん坊になる。

 「温泉むすめ」には多くのキャラクターがいますが、上記のほかにも「露天風呂でもその豊満なボディをおしげもなく披露する」(湯原砂和)など、設定に性的な描写が現れているキャラが存在しています。

問題になったのはキャラの設定とキャラデザ

 Twitter上では仁藤氏のツイートをきっかけに「温泉むすめ」への批判が沸き上がった一方で、仁藤氏などの批判者に対して「萌え絵への弾圧だ」「萌えおこしの何が悪いのか」という非難が寄せられ、炎上しました。しかし、ここで問題にされているのは、萌え絵・萌えキャラが起用された「萌えおこし」であることではなく、その内容です。

 たとえば定山渓和美はイタズラとして「スカートめくりをしちゃう」女の子として設定されています。現実世界では性暴力・性的いやがらせであるにもかかわらず、「スカートめくり」が単なる「イタズラ」とみなされ非常に矮小化され軽視されていることが問題になっています。そのような認識を反映したキャラクター設定です。また、「夜這いを期待している」という 小野川小町の設定は現在痴漢問題で一因とされている「認知のゆがみ」、痴女幻想とでもいうべきものを反映しています。 湯原砂和や和倉雅奈の設定はいうまでもなく直接的に性的な文言です。

 「性差別・性搾取」描写以外の問題も指摘されています。平戸温泉をモチーフにした平戸基恵は「クリスチャン」「シスター」と明記されていますが、明らかにカトリックの信仰や生活を無視した描写・造形がなされています。また、湯布院温泉をモチーフにした奏・バーデン・湯布院は「ハーフ」表象としてのステレオタイプをそのままに利用しています。

 また、設定とともに、キャラクター造形のデザインについても、肌の露出、乳房の強調など、性的な要素について批判されています。

それは「全年齢」的な描写か?

 百歩譲って、これがゾーニングされた成人向けのアダルトゲーム・アプリのキャラクター設定であれば、(偏見に覆われているとはいえ)まだ許容されたでしょう。しかし「温泉むすめ」はもとより現実の温泉地とタイアップしたものであり、そこでおおっぴらに販促活動がされているわけです。加害行為を許容するようなメッセージを公な場で公開しているということが、「温泉むすめ」騒動の一番の問題点なのです。なお、これらの設定は、本稿執筆時点で「サイレント修正」されています。

 当然これのような批判は、「萌え絵」の絵柄・「萌えキャラ」の起用、ひいては「萌えおこし」そのものが悪いと言っているのではありません。誰も「北へ。」に始まるゲーム等とのタイアップや「涼宮ハルヒ」シリーズに始まるに始まる聖地巡礼ブームなどといった「萌えおこし」自体を否定はしてはいないでしょう。ましてや、往々にしてすり替えらえれる「コンテンツの制作に携わるクリエイターへの攻撃」ではありません。(もちろんそのような攻撃をしている人もいるでしょうが、それはミサンドリー的なものや萌え絵・オタク忌避であり、本筋そのものとは別問題でしょう)

 今回の「温泉むすめ」の場合には、性差別・性的被害の周辺にある偏見・幻想の要素をナチュラルに使っているという制作者側の意識の問題と、絵の描き方の問題(萌えキャラであることが問題なのではなく、イラストの文法的に見ても「乳袋」の強調や赤らめ顔困り眉といった性的な表現が使われていること)が、こうして大っぴらに放置されていることが問題になっているわけです。

 これに対して、「観光庁もお墨付きを出しているのだから問題ない」という主張もあります。しかしこれは逆で、(いかにキャラクターが膨大にいるとしても)観光庁が「夜這いを待ち望んでいる」と少女に言わせる、性的幻想・偏見を表象するものが観光振興資源の中に含まれていることに無頓着で、無批判に後援していることにこそ問題があります。

 当然、「温泉むすめ」には多くのキャラクターがおり、それらすべてが問題をはらんでいるわけではありませんし、「温泉むすめ」というひとつのコンテンツが温泉振興に寄与したことはそれ自体価値あるものです。しかし、それだけ人を惹きつけ、温泉に寄与してきたコンテンツであるのならなおさら、偏見の再生産を行うような描写や、「全年齢」的でない描写に敏感であるべきなのではないでしょうか。

 そして、実際に今回の批判を受けて、「温泉むすめ」公式は、何のアナウンスもないままキャラクターのプロフィール画面を変更しました。公式も今回の描写の問題は認識したということです。制作会社、プロモーターの倫理が問われています。

関連するツイート

https://twitter.com/tsukino_rabbi/status/1460070755723460611

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