Qアノンの前には赤狩りとマッカーシズムがあった : キング牧師を「アカ」と断じた陰謀論者のFBI長官

by Juan Cole

 現代は陰謀論に悩まされる時代であり、ファシスト的なQアノン・カルトがその世間の狂気の中心になっています。これらの全くあり得ない考えは、何百万人もの人々に真剣に受け止められているようですが、インターネットやソーシャルメディアによって、また、その資金源となる新しい過激な億万長者階級の台頭によって実現されています。実際、Twitterの新しいオーナーであるイーロン・マスクがそのような陰謀に目を向けたことで、Twitterではヘイトスピーチや中傷、奇抜で危険な思想が爆発的に増えています。記憶に新しいところでは、Qアノンはヒラリー・クリントンやその他の高官がワシントンDCのピザ屋で小児性愛組織を運営していると非難していました。この悪質な嘘は、ピザ屋が銃撃される事態にまで発展しました。しかも陰謀論を前米国国家安全保障担当補佐官のマイケル・フリンが信じて流布していたのです! 最近では、2021年1月6日のクーデター未遂事件にQアノンが関与していました。

 世界が突然狂ってしまったのかと思われるかもしれません。

 残念ながら歴史家の悲しい務めとして、現状にショックを受けているすべての人に、コヘレトの言葉の一節を思い出させる必要があります。

かつてあったことは、これからもあり
かつて起こったことは、これからも起こる。
太陽の下、新しいものは何ひとつない。

コレヘトの言葉 1:9 新共同訳

 キング牧師を記念するとき、彼の時代の”Q”が匿名でなかったことを思い出すことは有益でしょう。それこそは、連邦捜査局(FBI)の長官であったJ・エドガー・フーヴァーです。

 FBIは1908年、秘密警察を恐れた議会の反対を押し切って、テオドア・ルーズベルトによって設立されました。マッキンリー大統領暗殺後のヒステリックな世相の中で、国中いたる所に潜み西洋文明の崩壊を目論むと思われていたアナキストを追い詰めることが当初の任務でした。実際にはアナキストはそれほど多くなかったし、あまり組織化されていませんでした。しかし憲法修正第1条に反して違法とされ、無政府主義者排除法が制定され、そのような人々がアメリカに来るのを禁止し、すでにアメリカにいる人々を国外追放することが簡単にできるようになったのです。アメリカは「アカへの恐怖」に取りつかれました。そしてその推進者の一人が、若き日のフーバーでした。

 FBIが誕生して16年後、フーバーは29歳でそのトップに就任し、「赤狩り」の波に乗り出します。彼は1972年まで鉄拳をもって組織を運営し、その間に後にFOXの報道王ルパート・マードックが使った、著名人をスパイしてゆすりのネタを取り、それを利用して人を操るという手法を完成させたのです。

 1940年代から1960年代にかけてワシントンを支配したもう一つのQアノン型陰謀論はマッカーシズムで、米国には多くの共産主義者がいて、彼らが政府を乗っ取るかもしれないというものでした。共産主義者はここではいわば新しい無政府主義者です。1950年代までに米国にいた共産主義者は10万人程度だったと思われますが、1956年にソ連のフルシチョフ首相が独裁者スターリンの犯罪を明らかにすると、その約半数が運動から去りました。誰一人として政府を転覆させようとは思っていなかったし、ほとんどが地方の組合に所属していたり、作家などであり、そのような力を持ち合わせてはいませんでした。以来今日に至るまで、金持ちのボンボンやギラギラした右翼たちは、アメリカの共産主義者の増殖を嘆いています。ピザ屋の小児性愛者サークルと同様に彼らは実在しないし、生活賃金のような完全に合理的な要求に関して人々を殴って服従させるために使われる幻でしかありません。共和党は、ジョー・バイデンのようなアイゼンハワーより少し右くらいの企業内民主主義者を「社会主義者」として打ち負かそうとしました。つまり、”奴はアカだ”ということです。

 赤狩りの本当の目的は、米国の労働者がより良い賃金と条件を求めて組織化することが困難にすることでした。労働者階級に共感することに汚名を着せることで、右派はそのようなの要求を政治的、社会的にタブー視してきたのです。

 フーバーは成人してからの一生を通して、社会主義者や共産主義者の脅威に取り付かれており、黒人の権利要求をもその色眼鏡を通して見ていました。人種差別主義者でもあったはずで、そうでなければ、公民権要求と弁証法的唯物論とを切り離すことができたはずです。つまりフーバーは、キング牧師を共産主義者の可能性があると考えていたのです。共産主義者は神を信じていませんから、それをどう彼の中で了解していたのか分かりませんが。実際、キング牧師は共産主義をキリスト教と相容れないものとして説教しています。

 キング牧師が社会主義者であったことは間違いなく、今日の主流のニュースが評するよりもはるかに過激な人物でもありました。しかし、彼はボルシェビズムを人々に押し付けようとするような革命家ではありませんでした。

 History.comのSarah Pruittは、キング牧師を支援し助言した弁護士の一人、スタンリー・レヴィゾンは共産主義者であり、1956年ころ以来運動に参加していたようだと説明しています。数年後、司法長官ボビー・ケネディは、この理由でフーバーにレヴィゾンの盗聴を許可しました。

 FBIは、国内監視プログラム「コインテルプロ」の下でキングを監視していましたが、彼が共産主義者である、あるいは共産主義者のようなものであるという証拠は何一つ見つかりませんでした。しかし、フーバーはこの監視をやめさせるどころか、キングの私生活の監視を利用して、彼の不倫の証拠を集めようとしました。そのテープを使って、キングに「評判が落ちるから自殺した方がいい」と説得しようとしたのです。

 フーバーは、実際にキングに自殺を指示するメモを書きました。

 今日のFBIは、このエピソードをFBIの歴史の中で暗黒面の1つとして振り返っています。

 トランプ”Qアノン”大統領の時代に米国政府の中枢で陰謀論が再燃した今、それらが民主主義に突きつける脅威に楽観的であってはなりません。キング牧師は、ジム・クロウ法による人種隔離と人種差別の害悪に同胞を直面させることで、アメリカの民主主義を刷新しました。

 これはまったく共産主義ではない。単純な人間の良識であり、アメリカの価値観の総体でした。私たちの基本的権利の古層に隠れて巣くうイデオロギー的シロアリに注意しなさい。

著者について

ホアン・コール ミシガン大学 中東・南アジア史

This article is republished from Common Dreams under CC BY-NC 3.0.

Image: See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

4 × five =