保守系諸派は2022年参院選をどう闘ったか(1) ネットで爆発した右翼の本気の共闘「参政党」

 7月10日に投開票された参議院議員選挙では、自民党が単独過半数を獲得し、自民・公明・維新・国民の改憲勢力が改憲発議に必要な議席を引き続き確保しました。野党共闘の不成立もあり立憲・共産は議席を減らしたものの、野党が候補者を一本化した青森のたなぶまさよ氏、長野の杉尾ひでや氏、オール沖縄のイハ洋一氏が選挙区で当選しました。
 この選挙結果を受けて、自民党総裁・岸田首相は「改憲発議をできる限りはやく進めていく」と発言しました。今や憲法「改正」国民投票が目前に迫っています。
 
 このような情勢の中で、今回の選挙で急にプレゼンスを示した右派系諸派(確認団体)がいます。今回の参議院議員選挙では既存の国政政党「NHK党」、政治団体「維新政党・新風」、「幸福実現党」、「日本第一党」、そして比較的最近登場した「参政党」「新党くにもり」「ごぼうの党」が比例候補を立てました。このうち、NHK党と参政党がそれぞれ1議席を獲得しました。
 これらの団体は、主にネット上で支持なし層を狙ったキャンペーンを行い、それぞれ違った結果が出ました。彼らの動向は、差し迫る憲法「改正」国民投票の結果を左右することでしょう。彼らの背景や手法上の特徴をよく分析し、彼らの何が有権者を惹きつけたのかを理解することが必要だと考えます。

右翼の本気の共闘 「参政党」

 参政党は137万票を得票し1議席を獲得、得票率が2%を超えたため政党要件を満たしました。参政党は2020年4月にYouTuberのKAZUYA氏(のちに離脱)や今回当選した元吹田市議で自身もYoutubeで活動する神谷宗幣氏などが設立した政治団体です。主要な党幹部の立場を見てみましょう。
 
 神谷宗幣氏は元々「吹田維新の会」(大阪維新の会とは別グループ)を率いる吹田市議でした。2010年に神谷市は超党派の保守系地方議員の団体「龍馬プロジェクト」を立ち上げました。また、PHP研究所社長・次世代の党顧問・おおさか維新の会議員団顧問などを歴任した江口克彦氏が提唱した「関西州政治家連盟」が発足した際に代表を務めました。
 
 「参政党」創立時のメンバー・中心メンバーには神谷氏のほかに5人います。実業家の渡瀬裕哉氏はアメリカのティーパーティー運動(草の根保守運動の一潮流)を日本に紹介した人物で、統一教会系の『世界日報』『ワシントンタイムズ』のウェブサイト運営に携わりました。日本会議の草創期からのメンバーである江崎道朗氏や保守論客の倉山満氏とともに「救国シンクタンク」を設立しています。2021年に参政党から離党しました。
 KAZUYA氏はいわずと知れた保守系YouTuberです。2021年に「党が陰謀論に走った」として参政党から離党しました。
 篠原常一郎氏(別名・古是三春)は、セクハラ疑惑で議員を辞職した筆坂秀世氏(日本共産党→離党)の秘書だった人物で、その後は筆坂氏と同じように統一教会『世界日報』などと協力して反共知識人として活動しています。
 松田学氏は官僚を経て衆議院議員を1期務め、たちあがれ日本・太陽の党・日本維新の会・次世代の党などの右派政党を遍歴した人物です。日本会議と関係が深いことを自ら公表しています。
 赤尾由美氏は実業家で元「つくる会」理事であるほか、「日本のこころ」から衆院選に出馬したことがあります。大日本愛国党総裁・赤尾敏氏の姪でもあります。なお、大日本愛国党は、選挙演説中の日本社会党委員長・浅沼稲次郎氏を刺殺した山口二矢、中央公論社長宅が襲撃され1名が殺害された嶋中事件を起こした小森一考などを輩出した右翼政治団体で、同党は1975年には当時の三木武夫首相も襲撃しています。
 吉野敏明氏は歯科医師で、疑似科学として有名な「メタトロン」を使用した「波動医学」の施術などを行っています。

 またこれ以外に、「ホンマでっかTV」に出演した著名人で現在はワクチン陰謀論を主張している武田邦彦氏、有名右派ブログ「ねずさんのひとりごと」(現「ねずさんの学ぼう日本」)でおなじみ小名木善行氏、医師でキリン堂取締役の井上正康氏などがメンバーに名を連ねています。また、『新唐人』(法輪功)、「チャンネル桜」、『世界日報』などでおなじみの右派系ジャーナリスト・活動家の我那覇真子氏も参政党を支援しているようです。

ネットに最適化された党活動 オンラインサロン、Youtube、Tiktok…

「参政党」の党員には、オンラインサロンやクラウドファンディングのように多様なオプションがある(同党公式サイトより)

 このような人脈だけ見ると古色蒼然とした右派政党のように見えますが、しかし参政党はフレッシュさを前面に押し出していました。参政党は「政党DIY」「投票したい政党がないから自分たちでゼロからつくる」などのキャッチフレーズで新しさをアピールしました。

 また、それはたんにスローガンであるだけではありません。支持者が様々な形で参加できるような党員募集を行っています。無料の「サポーター」から「メルマガ会員」「一般会員」「運営会員」…… さながらオンラインサロンやクラウドファンディングサイトのようです。
 参政党の一番の武器はネットでした。参政党関連のYoutubeやTikTokの動画は莫大な再生数をほこり、また各メンバーもYouTubeなどで元々ある程度の再生数を持っている人物です。TikTokで「参政党」と検索すると、TikTokでよく見るフォーマットに編集された参政党の押し上げ動画が、膨大な数再生されていることがわかります。このあたりは、日本共産党などの立憲野党のSNS戦略が乗り切れていない部分を、彼らはきっちりとこなしているように見えます。NHKの取材では、たまたまYouTubeで見て参政党を支持するようになったという複数の若者の声が取り上げられています。

[sanko href="https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/85833.html" title="新興勢力「参政党」国政政党目指す戦い 初の議席獲得" site="NHK政治マガジン"]

 
 ANNの出口調査によると、参政党は10代の比例投票先として5番手、20代の投票先として6番手になっています。同様の調査結果がTBSの出口調査でも現れています。

[sanko href="https://news.yahoo.co.jp/articles/db92b4d33697e9f64c29c4c638d3d395ccbc9e8f" title="「100万票は堅いだろうと思っていた。TikTokで若者が拡散してくれた」議席獲得が予測される参政党の神谷宗幣事務局長" site="Yahoo! ニュース"]
[sanko href="https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/91917?display=1" title="議席獲得が確実な「参政党」 どんな人が投票したの? ~出口調査から最速分析!~" site="TBS News DIG"]

政治不信の若者をとりこむも、主張は陰謀論と排外主義

 今回の選挙で参政党は、既存政党への不信をもつ若者を、現代的に最適化されたフォーマットで結集させたと言えると思います。また、元々ネット右翼に人気の保守言論人などが集まっていることもあり、これまで一枚岩でなかった個人のネット右翼層を結集させたという側面もあるかもしれません。この選挙中に参政党は8万の党員と4億円のカンパを集めています。決して侮ることはできませんし、手法面では批判的に摂取できる部分は十分にあるでしょう。

 それと同時に、参政党の党としての主張・政策をしっかりと批判しなければなりません。彼らはこうして新しい衣裳を着せた団体を作っていますが、その主張内容は古色蒼然たる陰謀論と排外主義でしかありません。

 先も述べたように陰謀論者として有名な武田氏や「波動治療」(真光系などを起源に持つ似非科学)の吉野氏が中心人物にいます。またそれだけではなく、神谷氏も反現代医療的な発言や、古典的な「ユダヤ金融資本陰謀論」を唱えています。初期メンバーのKAZUYA氏などが陰謀論を批判して離党したことは先に述べたとおりです。特にアメリカ大統領選挙における陰謀論も唱えられており、Jアノン政党とでもいうべき側面もあります。

 さらには「天皇中心の国」「外国人労働者の増加抑制」「自尊史観の教育」など、典型的な右翼排外主義主張の亜種のような政策が並びたてられています。評論家の古谷経衡氏は、参政党の主張・政策が、保守論壇の周縁にある人々とオーガニック信仰・反ワクチンの悪魔合体であることを指摘しています。

[sanko href="https://wjn.jp/article?id=15910580" title="カルト? ネトウヨ? 謎の新政党『参政党』とは?" site="WADAIJIN"]
[sanko href=”https://news.yahoo.co.jp/byline/furuyatsunehira/20220711-00305127″ title=”参政党とは何か?「オーガニック信仰」が生んだ異形の右派政党” site=”Yahoo! ニュース”]

 彼らは、未来に展望の持てない若者たちを、見せかけの新しさで古い陰謀論に引き込んでいます。あるいは、彼ら自身がそうであるがゆえにこの思想を生み出したともいえるかもしれません。その上彼らの側には、「統一教会」や「日本会議」に縁がある人などの保守人脈が、小異を捨てて立場の違いを超えて結集しています。

 いずれにせよ、参政党の躍進を軽視することはあってはなりません。彼らの洗練された手法から、市民と野党の共闘の展望を届ける手段を学び取る必要は大いにあると思いますし、またそうしなければ来るべき憲法「改正」国民投票において、彼らが若者をして暗黒の道に進ませることをみすみす許すことにしかならないでしょう。

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